漆 URUSHI:
urushitree.jpgはじめて漆という素材に出会ったのは、東京芸術大学の学生時代で、課題で彫漆や器などの作品をつくりました。それまで漆という素材に関する知識は、ほとんどといってよいほどありませんでした。課題で素材に触れていきながら、漆がアジア独特の天然の塗料であり、装飾性・造形性・接着性・耐久性などに他の素材にない多くの特徴を持つということを知りました。  縄文時代には人々は既に漆を使用しており、その後中国や朝鮮半島から影響を受けながら衣・食・住・信仰の場面に至るまで、漆が利用され発展してきました。漆は、西洋では”japan” (正確には漆を模した模造漆器) と呼ばれるようになったということもあり、まさに日本を代表する工芸なのです。
 漆に使用する道具や材料をはじめ、漆の表現技術に無限の可能性を感じ、そして何と言ってもかぶれの体験は強烈な印象をうけました。この不思議な素材をもっと知りたいと思うようになり、すっかり漆に魅せられてしまったのです。

装身具 ORNAMENTATION:
urushi.jpg大学で漆の基礎的な技術を学ぶとともに、女性として身近な題材でもある装身具に興味をもっていきました。まず、自分自身の漆ジュエリーを制作してみたのです。漆の技法のうち型に麻布を漆を使ってはり重ねて成形する乾漆技法は、軽くて自由な造形が可能なことから、大型のボディージュエリーを作るようになりました。体を纏うような形、絡み合うような形などの造形に加え、金属粉や貝・卵殻と漆塗りの深い光沢との表現、人間の体に装着することによる人間の体との一体感など表現することに夢中になっていきました。
 そのうち、”なぜ人びとは「身を飾る」のであろうか?”という疑問にぶちあたったのです。古代遺跡などから発見された遺物により、人間は太古の昔から飾身するという行為を行ってきたことが推測されますが、なぜ、「身を飾る」という行為が起こり、今も我々は装身具や服飾、或は刺青など様々な形で「身を飾る」という行為を行っているのか、不思議でなりません。
 現在でも、地域・民族ならではの独特の衣装や装身具をつけている人々が、世界の様々な地域に居住しています。特にアジアの山岳地域の民族の中では、「身を飾る」という行為が、信仰や風土・生活環境・歴史に深く根付いて発生してきたということを知り、彼らの装身具から「身を飾る」ということの本当の意味が見えてくるのではないかと考え、アジアの各地を旅をして調査を行うようになったのです。

調査活動 RESEARCH:
dougu.jpg1993年には中国貴州省の山岳民族地域へ漆装身具を探る旅にでました。1995~97年には、中国北京の大学に留学し各地を訪ね歩いたのです。また、1999年頃から現在に至まで、タイ・ミャンマー・インド東北部など東南アジア方面へ調査の対象地域を広げていきました。
 貴金属や宝石などの希少性のある装身具もありましたが、山岳民族の人々が、木や籐や竹、動物の骨や紐などの素材に漆を塗った装身具をつけているのをよく目にしました。その民族の居住する環境で容易に手に入る素材でも、それぞれの素材に意味を込め、漆を塗る事によって、興味深い装身具へ加工することを知りました。それらの装身具の造形や、それを身につける人々との関わり・由来・信仰など調べています。
 最近は、ミャンマーの漆と文化に焦点を絞り活動をしています。ミャンマーでは、漆芸技術大学の研究者や現地の漆工芸家・職人とともに、ミャンマーの伝統的な漆芸技法を学ぶと共に、漆を通した交流教育活動を行っています。

主な技法 TECHNIQUES USED:
zairyou.jpg乾漆の技法を使用して造形し、螺鈿や卵殻などの加飾技法を多く用いています。また、ミャンマーとの交流から、近年の作品ではミャンマーの竹を薄く割いたものを巻いて成形する捲胎技法による立体作品や装身具を展開しています。以下は、作品に使用している主な技法についての解説です。

乾漆 kanshitsu
粘土や石膏にて原型をつくり、原型に糊漆を用いて麻布を貼っていく成形技法。形や大きさにもよるが、3〜7枚の麻布を貼り込み厚みをつける。 砥の粉や地の粉と漆をまぜた漆下地を荒さを調節して数回塗布し表面を整えて脱型する。作品には、しばしばシート状に薄い乾漆板を作り、任意の形に切断し曲げるなどして加工したものが多い。金網、アルミ板を併用することもある。
下地 shitaji texture
漆下地は漆塗りを行う前に、素地を整え堅牢にしスムースにするために、砥の粉や地の粉と漆をまぜたものを塗布することであるが、その下地を盛り上げテクスチャーをつけ、表情をつけている。ヘラや櫛、縄などを使うこなど表情に工夫をしている。
螺鈿・卵殻 raden, rankaku
漆塗り面に、鮑や夜光貝などを薄く加工したものを切断し文様に沿って漆で貼り、乾燥後塗りを施して貝を研ぎだして仕上げたもの。同様に卵(鶉)の殻を使用したものが卵殻。
蒔絵 makie
漆塗り面に、漆にて文様を描き、乾燥する前に金粉・銀粉などの粉を蒔き文様を表す技法。平蒔絵、研出蒔絵、高蒔絵などがある。作品にはあまり使っていないが、地に金粉や箔を蒔きつけるなどの表現を行っている。